IE9ピン留め
ぷうううっ。
「…屁をしても一人」
尾崎放哉の句を真似て自虐的に笑った。
なんて知識人ぶって「屁」を形容してみたが、本当はこの句の作者の名前なんか知らない。
暇でググって、今、知った。
咳をしても一人の寂しい部屋で、あたしは無駄に検索して時間を潰していた。
なんとなく浮かんだ語源が気になる言葉とか、昔の同級生の名前だとか、
なんでもいいから調べた。
まるで、あたしが知らないなんて許せないかのようにむきになった。
きっと潰したいのは、今流れる時間よりも過ぎた時間だ。
何も知らずに過ごしていた、なんの変哲もないあたしの日常。
普通すぎる日々たちが、今のあたしをとてつもなく惨めにさせる。


「前から言おうと思ってたんだけど、言い出せなくて…友達に戻らないか?」

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# by 2mamebook | 2010-02-05 19:32 | は行
木の葉が色付き落葉もし始めた夜、コートをはおらないと
線香のにおいが染み付いた喪服は少し寒かった。

人の死ってなんだろう

そんなことをぼんやりと思いながら歩く通夜からの帰り道
いつもはなんの意識もなく通り過ぎる公園の前で足を止めた。
歩道向きに街灯があり、蛍光灯の白い光が植生え込みを照らしていた。
枯れ果てた紫陽花が暗闇に浮かび上がって不気味に咲いていた。
次の季節を待っているだけだけど、今年咲いた紫陽花の形を残していて
酷いけど「腐っている」という表現が一番似合う。
執念深く生き残ろうとする絵本に出てくる悪役の老婆のようだ。
「こんなになってまで、咲いていたいのか?」
寒々しい枝だけになった桜の木が上から嘲笑しているように見えた。
桜は散り際まで美しい。
いや、一番美しいときに終わってしまうから、美しいんだ。
紫陽花っていつ終わっているんだろう。

人の生ってなんだろう。

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# by 2mamebook | 2009-11-06 14:29 | は行
陽も完全に落ちた頃家に着いて、朝、窓に干しておいた洗濯物を取り込んだ。
乾いてから再び午後の湿気を帯びたタオルはしっとりとしていた。
一番大きなバスタオルをどけると、遠くに花火が上がっているのが見えた。
「ああ、もうそんな時期か」
実家の近くにある神社の夏祭り。参道に夜店が並び、少しだが花火があがる。
子供の頃よく行った。
少し離れた場所に一人暮らしを始めてからは行くことはない。
神社の花火の光が届く場所だったとは、今年初めて知った。
花火の光は、久し振りと笑いかける旧友のようなふりして明るく光り、
忘れないでねと悲しそうに空に消えてゆく。
花火から数珠つなぎに祭りの情景が思い出され、夜店や提灯の赤い光が脳裏に揺らぐ。
光と音の記憶が胸をキューとさせ、あたしはバスタオルを胸元で強く握りしめた。



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# by 2mamebook | 2009-09-04 17:46 | は行
ガムを噛んでいたら歯の詰め物が取れて、久し振りに歯医者に行った。
雑居ビルの一室に置かれた歯医者はすごくキレイだ。
待合室も居心地がよく、恐怖心を煽る歯を削る音を聞くことはない。
ほのかにアロマも焚かれてウトウトと寝てしまいそうだ。
「羽田さん、羽田美波さん」
と、受付の人が呼ぶ名前にびくりとして、睡魔が差し伸べた手をひっこめた。
ハネダミナミ…羽田美波と頭の中で勝手に漢字変換された。
あたしの世代でミナミといったら、南ちゃんが浮かんじゃいそうだけど、
ハネダミナミは美波だ。
羽田美波。
引っ越したばかりのアパートのポストにこの名前の郵宛の便物が何度か届いた。
おそらく前に住んでいた住人が、転居手続をすぐにしなかったんだろう。
ダイレクトメール等の有効期限のあるものは、何も考えず捨てるのだが、
捨てるに捨てられず部屋の壁に貼ってある手紙が一通ある。
美しい波打ち際の写真で作られた絵葉書。


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# by 2mamebook | 2009-03-12 17:10 | は行
「宮崎駿の作品はタイトルにみんな『の』がついているんだぜ」
と、今さらみんな知っているようなことを自分の大発見かのように得意げに言う野島君は結構ナルシストだ。自分は人が気付かないことに気づく才能を持っているらしい。
悪い人ではないが、友達以上になれないのは、そういうところだと常々思う。
基本的に自分のことが好きな人がいいけど、自分に惚れるのとは違う。
今日も野島君は、新入社員の女子に武勇伝を語る上司のごとく、居酒屋でさんざん「俺はすごいんだ。すごい奴になるんだ」と自分に酔いしれていた。
何を根拠にそこまで言えるのか冷めた視線を送っていると、なんの脈絡もなく突然、野島君は
「ねえ、俺の女にならない?」と言いだした。
「俺の女?」
あたしは不愉快そうに付加疑問文な発音で聞き返した。
「そう、俺の」
「の……」

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# by 2mamebook | 2009-02-26 18:39 | な行
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